ゼロの愛人 第3話 |
「この先ですか?」 「ああ。君の言った特徴のブリタニア人なら、一人この先にいる」 ついてこい。 黒の騎士団の団服に身を包む南は、そう言いながら指示した方へと足を向けた。 「すみません、案内をしていただいて」 「いや、気にしなくていい。俺も丁度行く所だったんだ。だが、君は彼にどんな用事があるんだ?」 ぎろりと、見下し睨みつけるような視線に、三下の癖に偉そうに、と思いながらもロロは怯えた風を装い、体を強張らせ、上目づかいで南を見た。 南の頬が若干赤くなった気がするが、気のせいだろうか。 気のせいじゃなければ後で・・・。 思わずポケットに忍ばせていたカッターに手を伸ばす。 「・・・そこにいる方が、僕の探している人かは解りませんが・・・僕は兄さん・・・兄を探しているんです」 「兄?ならば人違いだろう。君と彼は似ても似つかない」 「僕たち兄弟ですけど、残念なことに全然似てないんですよ」 そうなのか?と言いながらジロジロとこちらを見た後、何故か若干空気が柔らかくなった南は、もう少しだからと足を進めた。 先ほどの敵を見るような視線、兄と言った途端に柔らかくなった態度。 まさかとは思うが、頭の中にある抹殺リストに入れておくことにした。 兄さんは困ったことにモテる。 それも老若男女関係なくモテる。 兄さんもある程度自覚はあるのだが、女性からだけだと思っている節があった。だがそんなのは氷山の一角にすぎず、親衛隊やファンクラブ何てかわいらしいものだけであるはずもなかった。そう、女性は好きな男性相手にやることはまだかわいい。 問題は男の方だった。 男から恋愛感情を向けられているなんて想像もしていないから、男相手には無防備過ぎた。 兄さんを人気のない場所や使っていない教室に連れ込む連中がどれほどいたか。監視カメラの映像で気づいた機密情報局員が慌てて教師のふりをしてその場所に向かったり、校内放送で呼び出したり、僕がさり気なく探していたふうを装ったり・・・・ そんな事を考えながら辿り着いた先は。 「食堂、ですか」 日本語で大きく「食堂」とだけ書かれた看板が掲げられたその場所は、食事の時間はとっくに過ぎているのに、人でごった返していた。 「ああ。黒の騎士団の人間専用の食堂だ」 このあたり一帯が黒の騎士団の生活スペースで、食堂の二階がゼロのいる作戦本部なのだという。 食堂の二階に、ゼロ。 間違いないなと、ロロは口元に笑みを浮かべた。 ガラガラと、横開きの扉を開くと、奥から明るい声が響いてきた。 「いらっしゃいませ!・・・って、なんだ、南か」 明らかに落胆したような顔で言ったのは千葉。 元軍人で肉体派の千場だが、騎士団の女性陣(C.C.とラクシャータは除く)は交替でこの食堂の手伝いをしているのだ。 「なんだは酷いんじゃないか?」 南は明らかに不愉快そうな顔で千葉を睨んだ。 「仕方ないだろう、この時間にはいつも藤堂さ・・・いや、なんでもない!席はそこが空いている」 さっさと座れと促されるまま、空いている二人分の席に座った。 「あ、あの・・・」 僕、兄さんに会いたいんだけど? と尋ねると、南は今は無理だなと言った。 「この様子だとすぐには出て来れないだろう、食べながら様子を見た方がいい」 「・・・そうですね、お仕事の邪魔は駄目ですよね」 お金はあるか尋ねられ、蓬莱島へ入国した際に換金したと伝えれば、なら大丈夫だなと頷かれた。連れてきた自分が奢るという頭はないのかこの男。大体軽いものだが食事はとっくに済ませているのに。だが文句をいうわけにもいかない。 メニューは壁に掛けられているから選ぶように言われ、ロロは視線をさまよわせた。 日本語とブリタニア語でメニューが書かれ、壁に貼られていた。 その文字はとても几帳面で美しく、見覚えがある。 やはり、これは当たりだなと思わず目を細めた。 どれにしよう?とメニューを見ていると、客の注文が飛び交う声が聞こえた。 「A定食1、B定食2。3番です」 「サバ味噌セット1、月見そば1、5番」 「カレーライス1、醤油ラーメン1、サンマ定食1、生卵と納豆各1付きで10番」 厨房へ向かって店員が次々オーダーを叫ぶ。 メモをとる様子はない。 それでちゃんと注文した物が来るのだろうか?と一抹の不安を抱えた。 「俺は親子丼セットにしよう」 南がそう言ったので、慌てて選ぶ。 「じゃあ、僕は本日のお勧めで」 「了解。お勧め1、親子丼セット1、8番だ」 グラスと水差しを持ってきた千葉が、すかさず厨房に声をかけた。 店内は賑やかで明るく、人々でごった返していたのだが、ガラリと音を立て食堂の入口が開いた途端、全員が顔をこわばらせ、口を閉ざした。 そこにいたのは。 「ゼ、ゼロ!?」 「ゼロが、何でこんな所に!?」 そう、そこに立っていたのは仮面の指導者ゼロ。 その人物が、昔ながらの大衆食堂風に作られたこの場所に来るなど、普通であれば考えられないし、カツカツと靴音を鳴らし静まり返った食堂内を歩くさまは・・・違和感しかない。 何かあったのか? 緊急事態じゃないか? ここは騎士団専用食堂なんだから。 皆ひそひそと噂をし合う。 「ゼロ、何かあったのか?」 思わずこの光景に呆然としていた千葉は、慌ててゼロに声をかけた。 ここにいるメンバーで、幹部といっていい地位にいるのは南と千葉だけ。 自分たちに用があると考えるべきだと判断したのだ。 「何かとは?」 だが、仮面の男は不思議そうに返してきた。 「何も無ければゼロがここに来る理由が無いだろう」 南も立ちあがるとそう口を開いた。 すると、ゼロは楽しげに笑った。 「何を言っている。ここは食堂なのだから、食事に来たと考えるのが普通ではないのか?」 「「「は!?」」」 予想外の言葉に、全員が目を見開き、思わず驚きの声を上げた。 「しょ、食事って、ゼロが!?」 南が目を剥いてそう尋ねると「他に誰がいる」と、返された。 「私は確かにこの仮面で顔を隠してはいるが、仮面を外せばごく普通の人間にすぎない。食事をとるのは当たり前だろう?」 「だ、だがしかし、ここで!?」 そこまで声をあげ、はたと口を閉ざした。 全員、おそらく同じ事を考えただろう。 これは、チャンスなのだと。 仮面がある以上食事などできない。 つまり、仮面の下が見れるのだ。 ごくり、と思わず固唾を呑む音がどこからともなく聞こえた。 しんと静まり返った店内に、異様な空気た漂い始めた時、くくく、と仮面の男が笑った。 だが、そんな空気は次の瞬間霧散した。 「おい!何をさぼっている!3番と5番が上がっている、早く持っていけ!」 厨房から、怒気をはらんだ声が響き渡り、静まり返った店内で硬直していた店員が二人慌てて厨房へ駆けだした。 「た、大変です!ゼロが、ゼロが来ました!」 店員が慌てて声をかけているのが聞こえた。 「なに・・・ゼロが、また来たのか?」 「はい!また来ました!!」 「あの、馬鹿が!!」 必死な店員の声に続き、地を這うような低い声で放たれた罵声。 ゼロ相手に何て事を。 その場にいた者たちは顔を青ざめさせた。 厨房から不機嫌そうな靴音が響き、やがて姿を現したのは美しい漆黒の髪に白磁の肌、神秘的な光を宿すアメジストの瞳を持つ、美しいブリタニアの青年だった。 滅多に表には出てこないその料理人の噂は知っていた人々が感嘆の声を上げたが、青年はそれに気づく様子もなく店内を見た後柳眉を寄せ、ギロリと睨みながらゼロの前まで歩いてきた。 美しい人間が顔を歪め睨みつける姿もまた美しいと、再び感嘆の声が上がる。 「ゼロ、お前何度言ったらわかるんだ!」 人目があるにもかかわらず、青年はゼロに怒鳴りつけた。 「さて、私は何かおかしなことをしたかな?」 「おかしな事しかしてないだろうが!こんな大衆食堂に、堂々と降りてくるな!仮にも黒の騎士団のトップだぞ!イメージが崩れるだろうが!お前は上にいろ!」 「そう怒るな。私は昼を食べに来ただけだ」 「だから、ここで食べようとするな!」 からかうような口調のゼロと、怒鳴るブリタニア人の美しい青年。 異様な光景に、皆目が離せなくなっていた。 これを書いていたら、PSの「俺の料理」を思い出しました。 あのゲーム面白いよね。 きっとルルーシュもあんな感じで料理をしているに違いない。(違) |